先日発売されたApple TV第四世代では、デベロッパーがアプリを開発・公開できるようになった。Apple TVで動作するtvOSはiPhoneなどで使われているiOSをベースに作られているため、iPhoneアプリデベロッパーが既存のiPhoneアプリをAppleTVに移植したり、あるいはiPhoneアプリ開発の知見を活かして新しいAppleTVアプリを開発・リリースしやすい環境が用意されているが、リリースから2週間経った現在、ヘルスケア・フィットネス分野のApple TVアプリはまだまだ少ないようだ。
Apple TVにはヘルスケア/HealthKitがない
iPhoneではiOS 8以降、OS側に健康関連アプリ・データのハブとなるヘルスケアアプリと、各アプリがその機能・データにアクセスするためのAPIであるHealthKitが用意されている。HealthKit対応のアプリでは、健康に関するデータを一括で管理・閲覧できるようになるため、日中外出中に溜まった活動データや、体温・脈拍の推移を、帰宅後にApple TVでチェックする、などの使い方が予想されたが、少なくとも2015年11月現在、Apple TV(tvOS)ではヘルスケアアプリまたはHealthKitは使用できないようになっている。
個人にひもづくiPhoneとひもづかないApple TV
ヘルスケアアプリ/HealthKitが搭載されていない理由は公には発表されていないが、おそらくApple TVとiPhoneの使われ方の違いからきているのではないかと予想される。
iPhoneは基本的に個人に紐付いたデバイスだ。家族あるいは友達で一つのiPhoneを共有して使用する、ということはゼロではないかもしれないが、大多数は個人で一台を使用している。従って、そのiPhone上で記録された健康に関するデータをHealthKitを通じて個人に紐付けても大抵の場合は問題ない。また、iPhone上で閲覧するのも基本的には個人だし、ロックをかければ本人以外は自由に閲覧できなくなるためプライバシーについて難しく考えなくて済む。
一方で、一人一台ずつApple TVを買うという家族は極めて稀だろう。配線などの問題もあるから、一人一人個人のApple TVを所持し、使いたいときにテレビにつないで使う、というのは現実的ではない。だから、Apple TVは複数人で共有して使用されることを考慮しなければいけない。
ユーザ切り替え機能とプライバシーの問題
Apple TV(tvOS)は、現時点ではユーザ切り替え機能が用意されていない。一つのApple ID(個人のApple ID)を設定して使用することになる。従って、もしヘルスケアアプリ/HealthKitが使えてしまうと、Apple TVを介して個人の健康管理データを、Apple TVを共有している他の人が誰でも閲覧できるようになってしまうため、これらの機能はオフにされているのではないかと予想される。
センシティブなデータにアクセスする時だけロック解除を求める、という形も考えられたのではないかと思うが、テレビ画面上でフレーズ/パターンが他の人にわからないように解除できるロックを開発するのは難しいだろう。そもそも、ロックで保護できたとしても、そのデータを閲覧している様子を画面を通じて、部屋にいるほかの人が閲覧できてしまったら無意味である。
そのような理由から、Apple TVにはユーザ切り替え機能やヘルスケア/HealthKitの機能が無効にされているのではないかと予想される。
今後の予想
以上のような事情から、数多くあるヘルスケア/HealthKit対応のiPhoneアプリがApple TVに対応する日はしばらく来ないだろう。一方で、テレビという大きい画面を活用でき、かつプライバシーの問題がないフィットネスアプリが、今後しばらくApple TVにおけるヘルスケア関連アプリのメインストリームとなっていくだろう。